圧巻

 今月から川越南高校に通っている高1の塾生が、春休み明けの数学の課題テストで学年1位を取ってきた。

 平均47点に対して本人は100点。手違いにより個票では97点とされていたが、それでも校内偏差値は80を超えていた。

 学年で1位と聞くと、凄まじいセンスや才能を持った生徒を想像するかもしれないが、その生徒は決して数学が得意な訳ではない。実際、中学3年生のときに受けた全8回の北辰テストでは、数学の偏差値は60を超えることの方が少なかった。その子より数学が得意な生徒や、入試当日の点数が良かった生徒はいくらでもいるだろう。

 では、なぜその生徒が1位を取れたのか。その生徒の素晴らしい部分は、現状を認識し、今自分がすべきだと考えたことを確実に行動に移す点にある。

 その子に限らず、高校入試を終えた生徒が「大学入試は頑張る・高校に入ったら頑張る」と口にすることは多い。多いどころか、ほぼ全員が口にする。高校1年生の1学期はクラスのほぼ全員の志望校が、その高校の進学実績とは大きく乖離した国立・早慶・MARCHなのは、そこそこの偏差値の高校での、あるあるなのではないだろうか。

 私は、そういった生徒達に「国公立志望なのであれば、高校入試が終わったその日から勉強しようね。中学卒業後の3月は、何も予定が無いなら1日15時間くらいは勉強しておくんだよ。部活動に入るつもりなら、尚更だからね」と話す。脅しでもなんでもなく、そのくらい必要だと思っているから、そう伝える。(遊ぶなとは言っていない)
 多くの指導者は「入試が終わったんだから、沢山遊べ。勉強は高校に入学したら、また頑張れ」と話すかもしれないが、私はそんな残酷なことを言う勇気は持ち合わせていない。

 しかしながら実際は、こういった言葉を伝えられたか否かに関わらず、大多数の生徒は入試が終わった3月や春は勉強すること無く、遊び倒して過ごす。そのような生徒のほとんどは、高1が終わる頃には、早慶志望がMARCH志望に変わり、旧帝志望はTOCKY(筑波・御茶ノ水女子・千葉・神戸・横浜国立大学をまとめた、受験界隈で使われる用語)志望へと変わる。高3の夏には多くの生徒が国公立を諦める。夏以降、仮に1日17時間勉強しても、学習量が足りない現実を知るからだ。(その子達が悪い訳ではない。学校の先生にしても、塾の先生にしても、現実を伝える人が極端に少ないだけ。安易に「○○との両立」といった言葉を使い、現実を生徒に伝えないのはいかがなものか…)

 話を川越南の生徒に戻す。その生徒は、口だけではなく行動に移した。3月は塾が開いていた日はほぼ毎日勉強した(塾は毎日開いていた)。春期講習は1日15時間とはいかないまでも、12日間×9時間のコースを受講し学習時間を確保した。これが出来る生徒は少ないし、これをさせて下さるご家庭は、もっと少ない。私のことを信頼して通ってくれる生徒、お子様を預けて下さるご家庭に対して、心のなかで感謝をしつつ、日々の指導にあたった。

 指導内容はといえば、私はその子にはいきなり黄チャート(今年の川南1年生に渡されている網羅型の数学問題集)に取り組む自力は無いと判断し、小2の算数まで遡っての指導を行った。塾の体験に来た新中2(新中3ではない)が、展開と因数分解をいったりきたりする隣で、新高1は2桁の足し算・引き算や、1桁×1桁の百マス計算を繰り返す。傍から見れば異質にも映る光景が、そこにはあった。

 そういった基礎力の育成にはかなりの時間を要したが、4月に入る頃にはようやく高校内容にも取り組み始めた。本人に自覚は無いかもしれないが、遡っての学習は相応の効果を発揮した。以前はちょっとした計算だけで息切れしており、問題が聞いていることと向き合えていなかった生徒が、計算に思考を邪魔されることが減り、「なぜ・どうして」という部分に着目して学習するようになっていた。

~中略~

 つまりは、その子が学年1位を取ったのは才能やセンスでもなんでもなく、時間をかけてコツコツと努力したことに起因する。(尚、無闇矢鱈に時間をかければ良いという訳ではなく、「どこで、誰から、どのように」学ぶのかは非常に重要であることを補足しておく)

 今、川越南では2次関数の平行移動や定義域の場合分けを取り扱っているらしいが、早くも脱落している生徒が何人もいると言う。高校受験は直前の詰め込みや、地頭パワーでなんとかなることもあるが、大学受験はそうはいかない。真面目に積み重ねた生徒が、結果を出す。高校入学後の自分の立ち位置が想定と違う生徒は、今日から行動を変えてみて欲しい。

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圧巻
読み方:あっかん

「圧巻」とは、「ひとつの作品の中で最も優れている部分」を意味する表現である。もともとは「傑出した詩文」を指す表現であったが、今日では詩文や文章表現に限らず、演技、演奏、芸術表現、スポーツの技、工芸の技術、映画のシーン等々、多方面において「特に優れている部分」を指す意味で用いられている。
「圧巻」は、一個の作品の中でとりわけ優れた部分を指す表現である。「他の作品と比較して格段にこちらが優れている」という意味の表現としてはふさわしくない。他と比較する場合は「圧倒(的)」のような言い方を用いれば適切に表現できる。

「圧巻」の語源・由来
「圧巻」という言葉のそもそもの由来は、古代中国で行われていた官吏登用試験「科挙」に由来する。「巻」は科挙の答案のことである。科挙では採点後に答案を積み上げ、最も優秀な答案を一番上に置く習わしがあった。この「一番上に置かれた最も優れた答案」が「他を圧する巻」という意味で「圧巻」と呼ばれ、「最も優れたもの」を指す代名詞的な表現として定着した。


実用日本語表現辞典より引用
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語源の方で使用しているということで…

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